2023年12月20日付で日本医療安全調査機構理事長に選任されました門脇孝です。
日本医療安全調査機構は、2015年(平成27年)10月、改正医療法により施行された「医療事故調査制度」における「医療事故調査・支援センター」(以下、「センター」という)として厚生労働大臣から指定を受け、その業務を行っています。
医療事故調査制度では、「医療に起因する予期しない死亡」として「医療事故」が定義され、事故が起きた医療機関において死亡に至った原因の調査を行うことが義務付けられました。医療事故として報告された全ての事例について調査を行うということであり、これは世界でも類を見ない制度です。また、この調査を行うのは当該医療機関自身であるという、医療者のプロフェッショナル・オートノミーを重視した仕組みとなっています。
医療機関から報告された院内調査結果報告は、センターにおいて集積、整理、分析され、「再発防止に向けた提言」として取りまとめられます。2024年1月末時点で院内調査結果報告は2,561件に達しており、この貴重な知見を医療界へ還元することは、事故報告が集積されるセンターにしかできない非常に重要な役割であると認識しています。
1990年代の終わりから2000年代にかけて、医療事故が相次いで事件化し報道されたことにより、医療安全に対する社会の関心が高まりました。その後、2004年9月に日本医学会基本領域19学会が「診療行為に関連した患者死亡の届出について~中立的専門機関の創設に向けて~」を共同声明として発表、2005年9月には、日本内科学会を運営主体として厚生労働省補助事業「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」が開始されました。これが当機構の前身です。
2010年4月、一般社団法人日本医療安全調査機構が設立され、「モデル事業」を継承。そして2015年10月に、改正医療法下で「医療事故調査制度」におけるセンター業務を開始したことは冒頭に述べたとおりです。
私は、日本内科学会理事長時代に当機構の副理事長を務め、その後も監事を務める等、日本医療安全調査機構とはずっと関わりを持ってきました。
また、医療機関の管理者として、東京大学医学部附属病院長、虎の門病院長を務めて来ましたが、そこでの最重要事項として日々取り組んできたことが「医療安全」でした。
現場の医療安全の取り組みは、出来るだけ多くのインシデントの収集、それらの分析、再発防止策の立案、院内の体制への反映、というPDCAサイクルの運用です。この絶え間のない改善サイクルの出発点は、一つ一つのインシデントの報告です。この報告が多く上がるほど、リスクが明確化され、有効な再発防止策の立案に繋がるのです。
全ての医療事故を報告するという本制度の意義は、ここにこそあるのでしょう。
「医療安全」が社会的な課題であると認識されて20年余、「医療事故調査制度」が創設・施行されて8年が経過しました。もうすぐ10年目を迎えるこの制度と共に、医療の安全確保に向けて邁進してまいります。
令和6年2月
一般社団法人日本医療安全調査機構 理事長 門脇 孝